薬剤師が教える!かぜ症状におすすめの漢方薬
発熱や鼻水などかぜの症状に対処するために総合感冒薬(総合かぜ薬)などを使用する手もありますが、漢方薬(漢方製剤)も選択肢の一つになります。
「まず初めに漢方薬を使いたい」「他の薬が効かないから漢方薬を使いたい」「なるべく副作用が少ない方がよいから漢方薬を使いたい」など漢方薬を選択する理由は様々です。
医療機関でも医師によっては漢方を処方するケースも多く、症状や体質、タイミングによっては漢方薬がとてもよく効くケースがあります。今回は自身の症状や体質に合った漢方薬を選ぶための基礎知識として、かぜ症状に適する漢方薬について解説します。
目次
かぜの引きはじめに適する漢方処方
鼻やのどの違和感、寒気、倦怠感などかぜのひきはじめに適する漢方処方について解説します。
少し寒気がする、汗はかいていない場合
「かぜの引き始めで少し寒気がする、汗はかいていない」といった初期症状であれば、身体を温めて、発汗を促すことで熱を発散させ改善させる作用がある葛根湯(かっこんとう)が良いでしょう。
急性期に使われる薬のため、発病後1~2日が服用の目安となります。また発熱がなくても、慢性頭痛、緊張型頭痛、肩こりなどにも使われます。
おすすめの方
- 体力が中等度以上
- かぜのひきはじめで、悪寒が強い
- かぜのひきはじめで、頭痛、肩こりがひどい
- 車の運転や仕事、学校など、薬を服用して眠くなっては困る方
服用のポイント
葛根湯はかぜの症状で服用する場合と、慢性的な肩こりや筋肉痛などに対して服用する場合があります。またコップ1杯程度の「お湯」での服用がおすすめです。
- かぜの症状で服用する場合:数日間を目安に服用
- 肩こりや筋肉痛などで服用する場合:1ヶ月を目安に服用
より寒気がする場合や節々が痛む場合
葛根湯よりも体表を温める力が強いのが麻黄湯(まおうとう)です。かぜの引きはじめで、より寒気がする場合や節々が痛む場合などの症状におすすめです。
かぜの他に気管支炎など、熱の出る急性疾患の初期などにも有効です。
おすすめの方
- 体力が充実している
- かぜのひきはじめで、さむけが強く、熱が高い
- かぜのひきはじめで、体の節々が痛い
- 車の運転や仕事、学校など、薬を服用して眠くなっては困る方
服用のポイント
服用後、温かい飲み物を飲んだり、厚着したりして、体を冷やさないようにしましょう。暖かくすることで、麻黄湯の効果をさらに高めます。
高齢者や疲れやすくかぜをひきやすい方の場合
かぜの引きはじめで体力が虚弱な方には、桂枝湯(けいしとう)が良いでしょう。高齢者や体力が衰えた方(疲れやすくかぜを引きやすいなど)、胃腸が弱い方に向くかぜの引きはじめの漢方です。
葛根湯や麻黄湯は、体力がある人向けですので、桂枝湯はその逆のイメージです。
おすすめの方
- 体力が虚弱
- かぜのひきはじめで、さむけがある
- 胃腸が弱い
- 車の運転や仕事、学校など、薬を服用して眠くなっては困る方
服用のポイント
服用後、温かい飲み物を飲んだり、厚着したりして、体を冷やさないようにしましょう。
鼻水・鼻づまりに適する漢方処方
鼻水や鼻づまり、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)などに適する漢方処方について解説します。
水っぽい鼻水の場合
サラサラした水っぽい鼻水を伴うかぜ、花粉などによるアレルギー性鼻炎には、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)が良いでしょう。
たんを伴うせきを抑える効果もあります。副作用が少なく、眠気が出る成分も配合されていません。
おすすめの方
- 体力が中等度又はやや虚弱
- かぜで鼻水、くしゃみがひどい
- アレルギー性鼻炎で悩んでいる
- 車の運転や仕事、学校など、薬を服用して眠くなっては困る方
服用のポイント
コップ1杯程度の「お湯」での服用がおすすめです。
強い鼻づまりがある場合
鼻づまりがつらい方には、葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)が良いでしょう。慢性副鼻腔炎(蓄膿症)などにも使用されます。
おすすめの方
- 体力が比較的ある
- 鼻づまりが強い、お風呂に入って温まると楽になる
- 慢性的な鼻炎症状に悩まされている
- 鼻をかむと透明な鼻水が出る
服用のポイント
服用後、お風呂で体を温めたり、厚着したりして、体を冷やさないようにしましょう。蒸しタオルなどで鼻を温めるのも効果的です。
せきに適する漢方処方
せきやたんの症状の状態に合わせた適切な漢方処方を解説します。
たんが少ない、乾いたせきの場合
たんのない(少ない)乾いたせきには、麦門冬湯(ばくもんどうとう)を選ぶと良いでしょう。かぜを引いた後の長引くせきなどにも有効です。体力が中等度以下向けの漢方で、高齢者なども使用できます。
おすすめの方
- 体力が中等度以下
- かぜのあとのせきが長びく
- 車の運転や仕事、学校など、薬を服用して眠くなっては困る方
服用のポイント
症状によって服用期間の目安が異なります。
- 空咳の場合:1週間を目安に服用
- その他、ウイルスなどによる一般的なかぜの場合:1ヶ月を目安に服用
たんが多く出るせき、粘り気の強いたんが多い場合
たんが多く出るせきや粘り気の強いたんが多い方には、清肺湯(せいはいとう)が良いでしょう。たばこや排気ガスなどが原因となる症状にも効果的です。
おすすめの方
- 体力が中等度
- たんを多く伴う、せきが続いている
- 粘り気が強く、黄色っぽいたんがでる
- たばこや空気が悪い時などに症状が悪化する
服用のポイント
喫煙が原因として考えられる場合は、禁煙することで症状の緩和が早くなります。
うすい黄色〜濃い緑色のたんが出る、ゼロゼロしたせきの場合
気道の炎症が強く、うすい黄色〜濃い緑色のたんが出ている方のゼロゼロしたせきの方には、麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)が良いでしょう。またせきを鎮める作用が強く、気管支ぜんそくなどにも適しています。
おすすめの方
- 体力が中等度
- たんが絡んでゼロゼロしたせきがでる
- 気道の炎症が強く、うすい黄色から濃い緑色のたんがでる
- 気管支ぜんそくや激しいせきこみ
服用のポイント
症状によって服用期間の目安が異なります。
- かぜ症状の場合:5~6日を目安に服用
- その他の場合:1週間程度服用し、効果の実感があれば、1ヶ月を目安に服用
黄色で粘度の高いたん、激しいせきの場合
麻杏甘石湯に桑白皮(ソウハクヒ)という生薬を追加した五虎湯(ごことう)が良いでしょう。麻杏甘石湯に非常によく似た漢方薬で使い方も同様です。
おすすめの方
- 体力が中等度以上
- かぜで激しいせきが出る
- 黄色で粘度が高いたんのからむ
- 車の運転や仕事、学校など、薬を服用して眠くなっては困る方
服用のポイント
のどが痛い場合は薬を口に含み、ゆっくりのどを通すことで、症状の改善効果が速くあらわれると言われています。薬剤をのどの炎症箇所に通すイメージです。また五虎湯はコップ一杯程度の「水」での服用がおすすめです。
のどの痛みに適する漢方処方
のどの腫れや痛みに適した漢方処方を解説します。
かぜや乾燥や声の出しすぎでのどが痛い場合
かぜや乾燥、声の出し過ぎなどにより、のどの腫れや痛みがある方は、桔梗湯(ききょうとう)が良いでしょう。少しずつ口に含み、喉を潤すようにゆっくり服用すると良いでしょう。
おすすめの方
- 体力に関わらない
- かぜっぽくのどが痛い
- 乾燥や声の出しすぎでのどが痛い
- のどの痛みとともにせきがでる
服用のポイント
少しずつ口に含み、水またはお湯で、徐々に溶かして服用する。
かぜのひきはじめで熱感のあるのどの痛みの場合
かぜの引きはじめでのどが痛んだり、口が渇いて水が飲みたくなったりといった症状には、銀翹散(ぎんぎょうさん)が良いでしょう。
おすすめの方
- 体力に関わらない
- かぜのひきはじめで、のどが痛い
- かぜのひきはじめで、熱感が強いとき
- 車の運転や仕事、学校など、薬を服用して眠くなっては困る方
服用のポイント
のどが痛い場合は薬を口に含み、ゆっくりのどを通すことで、症状の改善効果が速くあらわれると言われています。薬剤をのどの炎症箇所に通すイメージです。また銀翹散はコップ一杯程度の「水」での服用がおすすめです。
かぜの中期から後期に適する漢方処方
かぜの症状が長引いている、胃腸症状があるなどかぜの中期から後期に適する漢方処方について解説します。
かぜをこじらせた、胃腸の調子が悪いかぜの場合
1週間近く発熱、悪寒、関節痛などがあるかぜの症状や吐き気、下痢などの胃腸炎がある方には、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)が良いでしょう。
おすすめの方
- 体力が中等度又はやや虚弱
- かぜをこじらせてしまった
- はきけや下痢などの症状がある胃腸型のかぜに困っている
- 車の運転や仕事、学校など、薬を服用して眠くなっては困る方
服用のポイント
症状によって服用期間の目安が異なります。
- かぜの中期から後期の症状の場合:1週間を目安に服用
- その他の場合:1ヶ月を目安に服用
かぜが長引いている場合
かぜが長引いて微熱や全身の倦怠感、食欲不振がある方には、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が良いでしょう。かぜが長引きやすい方は体力がもともと少ない場合が多く、日ごろから服用することでかぜを引きにくくする効果もあります。
コロナ禍において注目
日本感染症学会が出している新型コロナウイルス感染症に対する漢方治療の考え方においても免疫力を上げる働きが報告されている漢方として紹介されています。疲労や疲れやすいといった相談では、ビタミン剤や栄養ドリンクなどだけでなく、補中益気湯も選択肢となるでしょう。
おすすめの方
- 体力が虚弱
- 気力、体力、食欲がない
- だるさがあり、手足が重い
- かぜが長引いたり、病後の回復が長引いている
服用のポイント
症状によって服用期間の目安が異なります。
- かぜ症状の場合:5~6日を目安に服用
- その他の場合:1週間程度服用し、効果の実感があれば、1ヶ月を目安に服用
<主なかぜ漢方の選び方と適用部位>
漢方処方 | 主な症状 |
---|---|
麻黄湯 | 発熱、強い寒気、関節痛、筋肉痛、頭痛 |
葛根湯 | 寒気、肩や首筋のこわばり、頭痛 |
小青竜湯 | 水っぽい鼻水・たん |
柴胡桂枝湯 | 腹痛、吐き気、食欲不振、頭痛 |
桂枝湯 | 軽い寒気、発熱、頭痛 |
麦門冬湯 | 乾いたせき、切れにくいたん |
銀翹散 | のどの痛み、口(のど)の渇き |
補中益気湯 | 微熱、倦怠感、食欲不振 |
【選び方別】かぜ症状におすすめの漢方薬
①葛根湯(かっこんとう)
●「葛根湯」は、漢方の古典といわれる中国の医書『傷寒論[ショウカンロン]』『金匱要略[キンキヨウリャク]』に収載されている薬方です。かぜや肩こりなどに効果があります。
●かぜのひきはじめで、発熱して体がゾクゾクし、「さむけ」がとれないような症状に効果があります。
②麻黄湯(まおうとう)
特長 1
麻黄湯配合でかぜのひきはじめによく効く
特長 2
眠くなる成分は無配合
③桂枝湯(けいしとう)
④小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
⑤葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)
⑥麦門冬湯(ばくもんどう)
⑦清肺湯(せいはいとう)
⑧麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)
⑨五虎湯(ごことう)
⑩桔梗湯(ききょうとう)
⑪銀翹散(ぎんぎょうさん)
⑫柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
⑬補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
かぜを予防するためのセルフケアも重要!
かぜの場合、薬は対症療法にすぎないので、日ごろから風邪を引きにくくするには、ウイルスに感染しないよう、衛生面に注意することが重要な予防策です。また、適度な運動やバランスのよい食事で抵抗力を養い、「かぜをひきにくい体づくり」を心がけることも大切です。こうしたセルフケアは、他の病気の予防にもつながります。
手洗い・うがい
かぜは、電車のつり革や手すり、家具などに付着したウイルスを触った手を介して感染することもあるため、手洗いも大切です。手洗いやうがいをしっかりして予防しましょう。
空気の乾燥を防ぐ
空気が乾燥すると、鼻やのどの粘膜が乾燥して体の防御機能が低下し、ウイルスに感染しやすくなります。冬場の室内の湿度を適度に保って、感染しにくい環境を整えましょう。
栄養バランスの良い食事と適度な運動
ビタミンやアミノ酸など栄養バランスの良い食事や無理のない範囲での適度な運動、睡眠をしっかりとるなど、規則正しい生活をすることが大切です。