【漢方薬の基本】医師が教える、基本や正しい飲み方など絶対に知っておきたいポイント
漢方薬を買ったり服用したりしたことがなくても、ドラッグストアや薬局でみかけたりテレビCMをみたりした方は多くいらっしゃるでしょう。実際漢方薬の市場は、一般用(市販)・医療用ともに過去数年堅実に成長しています。「葛根湯(かっこんとう)」など、風邪の初期症状に効く定番の薬として定着してきているものもあります。
しかし漢方薬以外の一般薬との違いや本質は分かりにくい、選び方や飲み方がわからない方も多いことでしょう。ここでは、医師が漢方薬の基本をわかりやすく解説するとともに、代表的な市販の漢方薬をいくつか紹介します。
1976年昭和大学卒業。1980年同大学大学院修了。同大学麻酔科へ入局後、同大学藤が丘病院、同大学横浜市北部病院などで約40年にわたって手術室における麻酔とペインクリニックでの診療に従事。同大学横浜市北部病院病院長などを経て2018年より現職。昭和大学名誉教授。医療法人社団相和会理事。医学博士。著書に「疾患・症状別漢方治療 慢性疼痛」「すぐに使える痛みの漢方診療ハンドブック: 現代に合わせた本格的な漢方薬の応用-病態と漢方薬の特性を捉える」などがある。
漢方薬とは何か
漢方薬とは、日本の伝統医学である「漢方医学」で用いられる薬のことです。漢方医学は、江戸時代に日本に入ってきた「オランダ医学(蘭学)」、日本で古くから使われていた「中国伝統医学」と区別するために作られた造語で、「漢民族の伝統医学」という意味になります。オランダ医学(蘭学)は俗に西洋医学といわれ、そこで用いられる薬がいわゆる西洋薬(漢方薬以外の一般薬)です。
化学合成ではなく天然由来
漢方薬は、自然界にある植物、動物、鉱物などの中で薬として効果があるとされる「生薬(しょうやく)」と言われる材料を組み合わせて作られます。症状を改善し身体のバランスを整える作用があり、西洋薬のように化学的に合成されたものではなく、天然由来であると言えます。また、それぞれの生薬が持っている副作用を、様々な生薬を複合することで最小限にする努力もされています。
慢性疾患への対応、根本的な改善へ
また、漢方薬は、西洋薬のような病気そのものが治療の対象ではなく、病気を持つ人(患者)それぞれに対し、各症状に合わせて処方を行うオーダーメイド的な治療が可能です。
漢方薬は奥が深く、西洋薬にはない症状や病気に対する考え方、診断の仕方があり、時に西洋薬にはない効果が得られることがあるので、急性、慢性の疾患を問わず、試みる価値は十分にあるといえるでしょう。また、西洋薬では、基本的に対症療法が中心となりますが、漢方薬は患者の体質や病因に基づく根本的な改善を図ることが可能となります。
漢方薬の考え方と市販の漢方薬の選び方
漢方医学は、診断して処方するまで、レントゲンや血液検査などの西洋医学で用いられる「検査」を行うのではなく、「四診(望診、聞診、問診、切診)」と呼ばれる方法で患者の体をじっくり時間をかけて観察し、目に見えない体内の状態やその変化を明らかにします。ここで明らかにしたものを証(しょう)といい、証は西洋医学の「診断」に相当するものと考えるとよいでしょう。
証は、陰陽・虚実、気・血・水などの概念を用いて分類され、病態を把握し診断するための“ものさし”として体系づけられます。そして患者それぞれの証によって、使われる漢方薬が処方されます。
陰陽(いんよう)、虚実
陰陽・虚実は、何らかの刺激が人体に加わったときの反応の仕方、強さを示し、それにより体質を知ることができるとの概念です。
人間は病気と戦うために様々な反応を表します、活動的で熱性(暑がりで、脈が速い)の反応を示すのが「陽証」であり、一方で、非活動的で寒性(寒がりで冷えがあり、脈が遅い)の反応を示すのが「陰証」です。
「実」とは充実しているという意味で、病気が反応している場所に気・血が豊富に集まっている状態であり、「虚」とは空虚の意味で、病気の部分に気・血が乏しく、少なくなっている状態を言います。また、虚・実はそれぞれ病気に抵抗していく体力の衰えている状態、病気に抵抗する体力の充実している状態ということができます。
気(き)・血・水
気・血・水は人体を維持するために必要な3要素で、「気」は、生命活動を営む上で最も重要な生命エネルギーで、人体の活動に欠かせないものです。「血」とは、気のエネルギーによって体内を循環している赤い液体、西洋医学でいう血液を含む栄養物質です。「水」とは、全身を巡る無色の液体ですが、血と同様に体内を巡り体内の各々に潤いを与えています。
漢方薬の選び方との関係
市販の漢方薬のパッケージや添付文書をみると、「体力充実して」「体力中等度で」「体力虚弱で」など、ほとんどの市販の漢方薬で体力に関わる記載がみられます。これら体力に関わることはいずれも、次のように先に解説した「虚実」が関係しています。いくつかの漢方薬の体力に関わる記載と虚実の関係を確認してみてください。
これからわかるように、漢方薬は、患者がどんな体質なのか、どんな症状が起きているか、さらにどの程度の体力なのかを考え、選ばれるのです。
漢方薬の正しい服用の仕方
漢方薬は、その効果を最大限に引き出し、副作用のリスクを最小限に抑えるために、正しく服用することが大変重要です。次のことを意識するとよいでしょう。
服用についての指導を仰ぐ
漢方薬は、個々の体質や病状に合わせた処方が行われます。必要に応じて、漢方薬を十分に理解している医師や薬剤師等の診断、処方を受け、服用の仕方についても適切なアドバイスを得ることが重要です。
服用タイミング
漢方薬は、自然界の生薬を材料としているため、食物の影響を受ける可能性があり、その多くは食べ物が胃の中にない時、すなわち食前(30分から1時間前)の内服が一般的です。胃腸虚弱の場合は、胃腸に負担を掛けることを防ぐためや、しばらくの間空腹状態を保つために食後に服用することも可能です。
十分な水分で
漢方薬は通常、適宜の水分で服用しますが、エキス剤などは十分な水分で服用することによって、腸からの吸収を助長することが出来ます。
保存方法
漢方薬は、湿気や高温を避けて保存する必要があります。特に粉末タイプや顆粒タイプの漢方薬は、湿気を吸収しやすいために密閉容器に入れるなど、保管には十分注意する必要があります。
漢方薬を選ぶ上で役立つポイント
満量処方とは?
市販薬には多くの漢方薬がありますが、医療用薬との違いの一つに生薬の含有量が挙げられます。国が定めた「一般用漢方製剤製造販売承認基準」の最大量を配合している満量処方に加えて、その「2/3量」のもの、「1/2量」のものなどさまざまな量のタイプの商品があります。
一律に、すべての方に満量処方がすすめられるというわけではなくありません。若者や体格の良い方などで、効き目を重視する場合には「満量処方」を、高齢者や慎重に試したい場合には、「満量処方」ではないエキス量が少ないものを選ぶと良いでしょう。
満量処方の商品例
●「葛根湯」は、漢方の古典といわれる中国の医書『傷寒論[ショウカンロン]』『金匱要略[キンキヨウリャク]』に収載されている薬方です。かぜや肩こりなどに効果があります。
●かぜのひきはじめで、発熱して体がゾクゾクし、「さむけ」がとれないような症状に効果があります。
漢方の番号に注意
漢方薬には、番号がつけられている場合があります。ただし、メーカーや商品ごとに異なる番号がつけられている場合があるため注意が必要です。番号だけで判断せず、しっかりと漢方名を確認しましょう。
<例>
- クラシエ薬品:漢方セラピー「クラシエ」漢方半夏厚朴湯エキス顆粒→19番
- ツムラ:ツムラ漢方半夏厚朴湯エキス顆粒→16番
この商品は漢方薬なの?
また製品名が漢方薬の処方名でなくても、配合成分は漢方薬のこともありますので注意しましょう。
<例>
和漢箋 ツラレス→芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
ナイシトールGa→防風通聖散(ぼうふつうしょうさん)
テイラック→五苓散(ごれいさん)
漢方薬についてのよくある質問
①漢方薬に副作用はありますか?
漢方薬は、処方時にオーダーメイド的な要素を考慮して処方していますから、通常、副作用は少ないと考えられます。しかし、体質や内服時の体調によりアレルギー反応やその他の副作用を発症することがあります。漢方薬の内服後に身体の不調を感じたときは、すぐに内服を中止し、医師や薬剤師に相談してください。
②漢方薬はどんな病気に効果がありますか?
漢方薬は、風邪、消化不良、様々なストレス、冷えや易疲労感など幅広い症状に対して効果があります。急性疾患だけでなく慢性疾患も効果がありますが、感染症については、西洋薬に分があるかもしれません。漢方薬について迷いがある場合は、できるだけ医師や薬剤師に相談のうえ処方してもらうことをおすすめします。
③漢方薬は誰でも服用できますか?
漢方薬も西洋薬と一緒で、多くの方に処方できますが、妊娠中や授乳中、特定の疾患を持つ方には注意が必要です。漢方薬にも副作用はあるので、必要に応じて、医師や薬剤師の意見を聞くことが大事です。
④医療用の漢方薬と市販の漢方薬の違いは何ですか?
同じ名前の漢方薬に含まれる生薬の組み合わせは一緒ですが、配合されている成分量が違うものがあります。
代表的な市販の漢方薬
肥満にともなうむくみなどに:防風通聖散
かぜに:葛根湯、麻黄湯など
●「葛根湯」は、漢方の古典といわれる中国の医書『傷寒論[ショウカンロン]』『金匱要略[キンキヨウリャク]』に収載されている薬方です。かぜや肩こりなどに効果があります。
●かぜのひきはじめで、発熱して体がゾクゾクし、「さむけ」がとれないような症状に効果があります。
たんを多く伴うせきに:清肺湯
●「辛夷清肺湯」は、漢方の古典といわれる中国の医書『外科正宗(ゲカセイソウ)』に収載されている薬方です。
●濃い鼻汁が出て、ときに熱感を伴う人の鼻づまり、慢性鼻炎、ちくのう症に効果があります。